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海外と女性にフォーカスする――葉田順治さん(エレコム株式会社取締役社長)

2009/03/16 15:40




人ありて、我あり【奥田喜久男】

<1000分の第32回>


 「CEOといっても、私の場合はチーフ・エンタテインメント・オフィサーですから。とにかく人を笑わせたい、と…」。関西人のノリで快活に語る葉田社長。大阪は御堂筋にある本社にお邪魔して、ご自身の生い立ちから、エレコムの目指す新製品、新市場、そしてM&A戦略まで、いろいろとお話をうかがった。【取材:2008年11月14日、エレコム本社にて】

※編注:文中の企業名は敬称を省略しました。

●日本のよさをもっと誇るべきだ

 奥田 葉田社長は、いつお会いしてもお話しが上手で感心しているんです。

 葉田 何をおっしゃいますやら。私はようやく最近になって、人前で話すことができるようになったようなものです(笑)。

 先日(08年11月)、読売新聞から「関西フォーラム」のパネリストを依頼されまして、「どうして生粋の阪神ファンのオレが巨人の応援をしなければならないんだ!」と半ば本気で断ろうしたんです。ところが話を聞いてみると、そのフォーラムの過去のパネリストは、松下幸之助、日向方齊、中内功といった錚々たる方々。思わず、「私ごときでよかったら」と、腰砕けになって出席を快諾してしまいました。

 奥田 手のひらを返すように態度が変わって…(笑)。それで、そのフォーラムはどんなテーマだったのですか。

 葉田 「関西力で世界に挑む」というテーマです。関西の地域特性をどのように世界に展開していくかという話で、関西のものづくりや京阪神の文化について語り合いました。

 奥田 葉田さんは生粋の関西人に見えますが、生まれはどちらでしたか。

 葉田 生まれたのは三重県の熊野市で、小学校5年生までそこで育ちました。その後、兵庫県の芦屋に移り住み、中学から大学までは甲南に通いました。

 熊野の田舎にいた頃は毎回100点の優等生でしたが、都会の小学校では全然勉強についていけない。このときはさすがに猛勉強しました。だから、あまり昔のことは振り返りたくない。それよりも、今の話をしたほうが楽しいですね。

 今は世界中を飛び回ってアクティブに見えますが、それは後天的に身につけたものです。もっとも、会社では、「おれはチーフ・エグゼクティブ・オフィサーのCEOではなくて『チーフ・エンタテインメント・オフィサー』だ」なんて言っていますがね。

 奥田 なるほど、過去は振り返らない、と。では、今の話をうかがいましょう。

 葉田 このあいだ、当社はアメリカで開かれた「ボストン・キャリア・フォーラム」というバイリンガルの学生向けの就職フェアに参加しまして、そこのセミナールームで私は学生たちに持論を語りました。「英会話がちょっとできるからといって、仕事ができるなどと勘違いするな。英語がしゃべれるだけで尊敬されると思うな」って。実際は、私よりはるかに流暢に英語をしゃべる人たちばかりなんですけどね(笑)。ただ、そこに来た留学生の中には、なかなか骨のある子がいましたね。

 私は海外に出かけると、どうしても日本人のアイデンティティや日本企業の経営手法について考えることが多いのですが、それと比較してアメリカの経営で間違いだと思うのは、四半期決算、株主資本主義、M&Aにどっぷりはまりこんでいるという点です。『ハーバードビジネスレビュー』に書かれていることはすばらしいのですが、現実を見ると「これがアメリカの資本主義か」と思ってしまいます。

 戦争に負けて以来、日本人の魂とか道徳とか倫理といったものが否定されがちです。また、日本人自身に自虐的な傾向があるように感じられますが、日本という国はそのよさをもっと大切にすべきだと思います。

 奥田 日本人はもっと胸を張っていい、ということですね。

 葉田 その通りです。現に東南アジアではどこに行っても日本製品が好まれますし、このあいだフィリピンに行ったら、エレコム製品が通常の3倍の価格で売られていました。

 現地の人に「どうしてこんな高いものを買うのか」と問うと、「メイド・イン・ジャパンだからだ」といわれました。「メイド・イン・ジャパン」は、日本を支えるブランドなんですね。それは、韓国や中国の市場でも例外ではありません。アニメなどの影響もあって、日本製品は「ジャパン・クール」といわれ、好かれているんです。

●「世界標準」のものづくりへ

 奥田 となると、海外戦略は重要ですね。

 葉田 ところが、残念ながら当社は海外に出ては負け続けです。1992年に最初の海外拠点をアメリカに設け、その後、イギリス、韓国、中国、ドイツ、イタリア、そしてヨーロッパの拠点を集約するためオランダにも拠点を設けましたが、結局、欧米の拠点はほとんど撤退しました。

 実は1986年に創業したときから、エレコムは日・米・欧で勝負する、とずっと思い続けてきました。私は巳年生まれだから執念深いんです(笑)。そして、創業間もない時期にCOMDEX(毎年アメリカで開催される世界最大規模のコンピュータ展示会)の会場を訪れ、出展するにはどうしたらいいかを尋ねたこともあります。

 すると、周囲の反応は「そんな小さい会社が出てどうするんだ」と冷たい。それでも、その後COMDEXに出展したところ、エレコム商品の評判は非常によかった。ただ、販売チャネルが形成されていないため、なかなかうまくいかなかったという経緯がありました。今、その体制は整いつつあり、ようやく海外展開のチャンスがめぐってきたと思っています。

 そして、7~8年前あたりから、シンガポール、インドネシア、フィリピン、台湾など東南アジアの国々から引合いが来るようになりました。現地でエレコムの代理店をやりたいというのです。シンガポールの代理店の資本金は、わずか1シンガポールドル。今の円相場だと65円程度です。そんな小さな会社が、土日も休まず一生懸命にエレコム製品を売ってくれている。

 そのわけを尋ねると「エレコムが一番だからだ」といいます。これには感激しました。私は「真似をする会社でなく、真似される会社になろう」という信条でこれまでやってきましたが、それが間違っていなかったということを、このときに改めて感じましたね。

 今は、社員に対して「売上高構成で海外9割・国内1割を目指せ」といっています。気宇壮大な目標ですが、国内で広く浅く売れればいいというのではなく、ワールドワイドに展開する会社にならなければいけません。世界を相手にしている会社は、やはり製品を磨いており、最初から世界標準で開発にあたっています。これからエレコムは、その世界標準に加えて「ジャパン・クール」でものづくりをしていこうと思っています。

●デザインを重視する理由

 奥田 海外だけでなく、国内でも最近感激したことはありませんか。

 葉田 感激というか、うれしいことといえば、人が育ってきたことですね。ご存じのように、当社は製品デザインを非常に重視していますが、2008年は社内デザイナーが経済産業省のグッドデザイン賞(Gマーク)を4シリーズにわたって受賞しました。

 08年に限らず、当社では4つ、5つは当たり前になっています。大メーカーでも年に二つ程度といいますから、それだけの実力ある社員が育ってきたことはうれしいですし、誇れることと思いますね。

 奥田 どうして葉田さんは、そんなにデザインに力を入れるのでしょう。

 葉田 やっぱり好きなんでしょうね。家電や自動車のデザインにしても、私はソニーやホンダが好きです。なぜかといえば、そこに日本のアイデンティティというか独自性が感じられて、それが脈々と受け継がれていると感じるからです。

 エレコムを創業した頃、すでにマイクロソフトやインテルがありました。とても同じ土俵では太刀打ちできない相手です。そこで、ニッチな分野であるPCアクセサリやPCサプライの市場を狙ったわけですが、当時この市場の商品は、品質やテクノロジーよりも「ファーストインプレッション・ファーストタッチ」、つまり第一印象が購買につながる重要な要素だったのです。

 そこで、差別化のためにはデザインセンスが問われると考え、そこに独自性を求めたということですね。もっとも、今は品質についても厳しく問われるようになりましたけれども…。

 奥田 デザインといえば、こちらの社長室にお邪魔したとき、超一流の調度品が置かれていることに驚きました。まるで資生堂に来たみたいだと。そして葉田さんご自身も、以前はだいぶ派手なファッションでしたね。

 葉田 昔、シアトルの税関を大阪・ミナミのにいちゃんみたいな格好で通過しようとしたら、呼び止められたことがありました。「おまえ、日本のヤクザか?」って(笑)。今は、だいぶおとなしくなりましたけど。

●上場することの意義

 奥田 上場されてから、少し地味になられましたね。やはり、上場するといろいろ変わりますか。

 葉田 よかった点をいえば、まず、入社を希望する学生の質が非常に高くなったことです。そして、社員が愛社精神というか会社へのプライドを持てるようになったことは大きいですね。

 それに、上場すると外部からも経営への厳しさが求められるため、儲かっているからといって気を緩めることはできません。それだけの緊張感があるわけです。いわばそういう制約があるため、世界で一番になるという人生の目標に専心できるといえるでしょう。私の場合、創業者利益を得ることに執着はありませんし、むしろ慎ましく生きたいと思っていますから、それでいいのだと思います。

 奥田 エレコムの上場は2006年11月ですが、それ以前にも上場しようとしたことがありましたね。

 葉田 セプテンバー・イレブンの頃(2001年)ですね。このときは、上場しようと思えばできたのですが、新しいビジネスモデルが確立していなかったため見送ったという経緯があります。

 奥田 以前のビジネスモデルとこれからのビジネスモデルの違いはどこにあるのですか。

 葉田 前のビジネスモデルは、PCアクセサリとIOデバイスに領域をしぼり、選択と集中を繰り返すというものです。しかし、それだけではどうしても縮小均衡に陥ってしまう。そこで、「新しい製品、新しい市場、新しいM&A」を軸に、再成長のシナリオを描いたのです。これが新しいビジネスモデルです。

 そして、2年ほど前にクレド(経営理念と行動指針)をつくりました。つくりあげるまで2年間ほどかかりましたが、「自分が何をやりたいのか」ということをフォーカスすることに苦労しましたね。

 奥田 クレドの中にある「成長し続ける」「挑み続ける」という言葉は、たしかに葉田さんらしいです。これによって、会社の芯が一本通るわけですね。

●M&Aでは「エレコム魂」を注入すべし

 奥田 再成長のシナリオについて、少し噛み砕いてお話しいただけますか。

 葉田 まず、「新しい製品」については、先ほども申しましたように、徹底的に日本のアイデンティティにこだわった「ジャパン・クール」を追求し、基本的に世界標準とするということです。その代表的な製品が「エッグ・マウス」です。欧米でも中近東でも、中国、韓国、東南アジアでも絶賛されていますし、売り上げも伸びています。

 ここ数年、エレコム製品は品質オリエンテッドになっていますが、それは世界に通用させるためです。つまり、もっと快適に使いこなせて、繊細なジャパネスクを感じさせる製品を一からつくる。そして、これまでエレコムは内製にこだわってきましたが、今後は外部とのコラボレーションも積極的に行ない、欧米の列強に伍していこうと考えています。

 そして「新しい市場」ということでフォーカスしているのは、海外と女性です。アメリカとオセアニア以外の流通チャネルはすでに整備されており、為替変動に左右されない仕組みも構築しつつあります。女性市場ということでは、たとえば女性専用マウスなど、他社が手がけていないもので、なおかつ世界に通用するものを開発していくということですね。

 奥田 最後に挙げられた「新しいM&A」はどうでしょう。

 葉田 自分たちの足りない商品ジャンルと販売チャネルを補完するというスタンスですね。できるだけ、わかりあえる相手と組んでやっていきたいと思っています。すでにロジテックを4年前に買収しましたが、これにより総合周辺機器メーカーのイメージが高まり、以前よりも商談がやりやすくなったことは間違いありません。私はM&Aの効果が出るまでには5年はかかると思っています。ですから、中長期的な視点が必要ですね。

 そして、M&Aでは絶対にリストラをしないことと、経営は相手に任せることが大事だと思います。ただし経営については、常にきめ細かくチェックをし、同時に「エレコム魂」を吹き込むことが必要です。

 奥田 「エレコム魂」とは、どんな魂なのでしょう。

 葉田 「自分がやらなければ誰がやる」という責任感を持ち、社員自身がエレコムのことを「自分の会社」と考えることですね。これはもちろん、持株の有無とは関係ない次元の話です。そして、国内営業のセクションでいえば、不撓不屈の精神です。かわいそうなことに彼らは、私からいつも「このボケ!」とののしられていますけどね(笑)。その甲斐あってか、世間様からは「エレコムは営業が強み」と、高い評価をいただいています。

 奥田 「営業力のエレコム」というわけですね。ところで、2008年の「BCN AWARD」で葉田さんは鮮やかな赤のジャケットで登壇されました。私も2009年のアワードでは、ノーネクタイにジーンズで臨もうかと考えているのですが、どう思われますか。

 葉田 うーん、それはBCNのプレゼンスを考えなくちゃ。アップルみたいな社風ならいいでしょうが、ノーネクタイとジーンズはさし当たってやめたほうが……。あまり、冒険はしないほうがいいですよ。うん、しないほうがいい。

 奥田 そうですか、それは残念。それでは次回のアワードでは、葉田社長のファッションを楽しみにするのにとどめておきましょう(笑)。

■プロフィール
葉田 順治(はだ じゅんじ)

 1953年10月三重県生まれ。1976年3月甲南大学経営学部卒業。1986年5月エレコム株式会社設立、取締役就任。1992年8月常務取締役。1994年6月専務取締役。1994年11月取締役社長(代表取締役)に就任し、現在に至る。兵庫県西宮市在住。趣味は読書、ゴルフ。

※初出:「WebBCN」2009年1月19日

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